見せてもらおうか、縮退進化したミトコンドリアの性能とやらを
もし真核生物が誕生していなければ、今、君はここにいない。君だけでない。君の目に映る昆虫や草木などの生き物もまたそこにはいなかっただろう。そしてこの真核生物の誕生、少なくともその初期進化に大きく関与したと考えられているのが、細胞内共生によるミトコンドリアの獲得だ。かつて持っていたミトコンドリアを進化の過程で失った例外的な真核生物(Monocercomonoides sp.)を除き、ミトコンドリアを持たない真核生物が発見されていないという事実は、この考えを支持する一つの強い証拠となっている。
では、そもそもミトコンドリアとは何だろうか。もしかしたら、酸素を使ってエネルギーを生み出す細胞小器官と答えるかもしれない。よく勉強している。でも残念ながらそれは不正確だ。実際には、酸素を使わずにエネルギーを生み出しているミトコンドリアや、そもそもエネルギーを生み出さないミトコンドリアをもつ生物が数多く見つかっている。このような非典型的なミトコンドリアは、ミトコンドリア関連オルガネラ(Mitochondrion Related Organelles : MROs)と総称されている。これらMROsは一体どのような機能を持っていて、どのように進化してきたのか。その解明を目指して、私は橋本哲男先生のもとで卒業研究に取り組んだ。具体的には、メタモナスと呼ばれる生物群に属する2種の自由生活性単細胞真核生物Dysnectes brevisとKipferlia bialataにおいて真にMROに局在しているタンパク質群を明らかにすることを目的に、これらのもつMROのプロテオ―ム解析の実現に向けて研究した。そして、その実現に必要不可欠なMRO局在タンパク質に対する特異的な抗体の作製に成功するなどの成果をあげることができた。
4年生になると、研究をするために必要な環境が与えられる。その上で、確固たる実力を持つ研究者であり教育者である指導教員のサポートのもと、ある特定の目的の実現に向けて自発的かつ戦略的に卒業研究に取り組んでいくことになる。本学類で3年間学んだ後の君は、そのために必要な武器を既に手にしているはずだ。あとはそれを手にとって戦えばいい。本学類での君の成長と活躍を楽しみにしている。