Study Nature, not Books!
国立研究開発法人海洋研究開発機構研究員 宮本 教生
地球上には未だ人による探査が不十分な場所がある。そのような場所にはこれまでの常識が通用しない生物が生息していることがある。不可解な生物に出くわした時に必要となるのが、生物をしっかりと観察する力である。19世紀の博物学者ルイ・アガシーが「Study Nature, not Books」という言葉を残した。直訳すると「自然を学べ、本からじゃないぞ」ということだが、これは決して多くの先人たちが積み上げてきた知識の体系を無視しろと言っている訳でないだろう。つまり多くの知識を座学により習得することも重要であるが、自然と向き合う際には先入観を捨て、まずは自分の目でしっかりと観察するという姿勢が大切であるということだ。現在私が主なフィールドにしている深海は、地球最後のフロンティアなどと呼ばれ、21世紀になってからもこれまでの常識では考えられないような生物が見つかっている。珍奇な生物に相対したときに必要となる自然と向き合う姿勢は、大学時代に鍛えられていたとよく実感する。生物学類は実験や実習が非常に充実しており、とにかく実物を観る力が鍛えられる。大学周辺にいる生物や様々な動物の発生過程をとにかくスケッチしたのは今ではいい思い出だ。下田と菅平で実施される実習には極力参加し、海や高原に生息する多種多様な生物に触れることもできた。また大学近くにある国立科学博物館の植物園(筑波大生は無料)で季節を感じながら散歩をするのも実に楽しい。このような経験を通して、いつのまにか自然を観る力が養われていたのである。
自然は地球上だけではない。人類は今まさに地球外生命の探査に踏み出そうとしている。そして実際に何かが見つかった場合にそれを研究するのはこれから大学に入る君たちの世代だろう。そんな時代がきたとき先入観に囚われず、本質を見抜く観察眼を持つ人材が生物学類から生まれることを期待している。