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教員紹介

ウニが教えてくれる体の形づくり

卵の形は似通っていても、魚には魚の、カエルにはカエルの、そして私たちヒトにはヒトの体の形があります。それぞれの体の形を決めているものは一体何なのでしょうか。今回は、生き物がその体を形作る上で重要な体の軸を決めるメカニズムである「体軸形成」について研究されている、下田臨海実験センターの谷口俊介(やぐちしゅんすけ)先生にお話を伺いました。

自然あふれる町、下田での研究
つくばから電車に揺られること約4時間。筑波大学下田臨海実験センターは、黒船来航の地として知られる活気あふれる港町であり、同時に豊かな自然に恵まれた土地、静岡県・下田市にあります(図1)。この下田市で、「生命とは何か、またそれぞれの生物はどのような関わりを持って生きているのか」をテーマに研究・教育を日々行っているのが下田臨海実験センターです。サンゴやホヤ、ウニなどの海洋生物を実験材料として扱っている研究室を多数持ち、谷口研究室もその1つです。研究室を主宰する谷口俊介先生は、発生生物学の分野で古くから用いられてきたウニを使って、体がどのようにして「三次元」構造を作り出しているのか、その仕組みについて研究しています。

図1 下田臨海実験センターの前に広がる鍋田湾。
ここをフィールドとした学類生向けの実習が多数存在し、毎年多くの学生が参加している。

「三次元」が作り出される仕組み
生き物の体を形作る上で最も重要で、最も初期に起こるイベントの一つに「体軸形成」があります(図2)。
 多細胞生物は、前後軸、背腹軸、左右軸と呼ばれる軸に沿って、細胞や組織・器官を配置することにより、三次元の体を作り出します。これらの軸の形成を体軸形成と呼びます。では、体軸はどのように形成されるのでしょうか。

図2 ウニの胚発生時における体軸形成。
一次軸形成(前後軸形成)と二次軸形成(背腹軸形成)をつなげるメカニズムのモデル図。背腹軸形成因子であるNodalを抑制しているFoxQ2を前後軸形成因子のβ-cateninが抑制することで、正常な前後軸形成に依存した背腹軸が形成される。

 ウニの前後軸は、「β-カテニン」と呼ばれる物質がシグナルによって形成され、背腹軸は、「Nodal」と呼ばれる物質がシグナルとなって形成されるとされており、それらはそれぞれ独立してウニの形作りに関与していると考えられていました。しかし、前後軸と背腹軸の形成は、「FoxQ2」と呼ばれる、ゲノムDNAに特異的に結合して遺伝子の転写を制御する「転写因子」によって連携されていることが谷口先生らのグループによって明らかにされました。
 また、前後軸形成と神経の形成は切っても切れない関係があり、前後軸形成に関わる「β-catenin」によるシグナルが正常に働いていると、体の一番前の部分に神経が形成されます。しかし、谷口先生らは、このシグナルを働かなくさせると、身体中が神経になったウニができることを発見しました。この結果から、卵のもともとの運命は神経であったと考えられるといい、現在、先生は「何が、神経の形成を抑えているのか。どうして前方だけが神経形成能を維持できるのか」という点に特に興味を持っているということです。

目の前の不思議を解き明かしたい
知りたいことがたくさんありすぎて実験が追いつかないという谷口先生。研究の最終目標を伺うと、その答えは、「特に厳密には決めていない。『生き物ってなんだろう?』というボヤッとした疑問のもと、とりあえず目の前の不思議を解き明かしたい」とのことでした。「生き物を見続けることで、ゴールの位置が次々変更される基礎研究だからこそ、知りたいことを追いかけられるし、そこが基礎研究の魅力だ」と先生は話しています。  また谷口先生は、「ウニという生き物を使うことが研究者としての欲求を満たしてくれる」といいます(図3)。中学校の教科書にも登場するほど、ウニは古くから発生生物学のモデル生物として利用されており、先人達の知識が蓄積された比較的扱いやすいとされている生き物です。そのため、思いついたことをすぐに実験に移すことができます。  先生は、ウニの性質を生かして体軸形成の研究を行う以外にも、遺伝子組換え技術を用いるなどして、ウニの不思議に関わるたくさんの研究をされています。また、オフィスでは、ウニだけでなく、カニや魚が飼育されており、先生の生き物好きを垣間見ることができました。生き物を「見る」ことで感じた不思議を解き明かしたいという気持ちが、先生の研究の源となっているのでしょう。

大学生だからこそ、色々なことに挑戦を
 「とりあえずやりたいことをやってみる」ことが大事だとおっしゃる谷口先生がウニを使って研究を始めたのは、大学院修士課程の時。先生は学部生時代、ゾウリムシが飢餓状態になった時有性生殖を始めるメカニズムである「メーティングリアクション」について分子生物学の面からアプローチしていたそうです。しかし、単細胞生物であるゾウリムシについて研究することは、自分がしたいことと違うと、修士入学と同時に研究室を変え思い切ってウニの世界に。それから今に至るまで、「思いついたときにすぐにやりたいことができる」ウニ一筋で研究をされています。「自分のおかれた状況において、何かを変えることに臆病になりすぎず、向いていないと思ったら別の道があることを忘れないで」と先生は言います。

図3 谷口先生が実験に用いている「思いついた時にすぐ実験ができる」バフンウニ。

 さらに、「色々な人と接して、限界まで遊ぶこと。そこで得た経験や、出会った人が後の人生の糧になる」というメッセージもいただきました。この言葉の裏には、先生の印象的な学生時代のエピソードがあります。筑波大学に着任する前、カナダの大学やアメリカの研究所で働いていたことがある谷口先生ですが、実は中高生時代から英語が得意だったわけではなく、むしろ苦手でした。しかし、先生が東北大学1年生の時、英会話を勉強したくなり、どうすれば英語が話せるのかを考え、仙台の街中で英語を話す外国人に話しかけてみたそうです。その結果、無料の英会話教室を見つけたり、多くの外国人と接したりすることで英語への苦手意識がなくなり、外国に住んでみたい!とまで思えるようになったそうです。そして、研究者として海外で生活する人生に至ったのです。
 一歩外に踏み出して、「とりあえず」やりたいことをやってみることが、私たちを新しい世界に連れて行ってくれるのかもしれません。

 

【取材・構成・文 中川 朔良】

PROFILE

谷口俊介 生命環境系 准教授
研究テーマ:発生生物学、体軸形成、神経細胞分化
所属:生命環境系 下田臨海実験センター
研究室HP:https://sites.google.com/site/yaguchisea/

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