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研究者をたずねて

最前線で生物多様性を守る

公務員レンジャーの仕事

 10月8日、筑波大学自然保護寄付講座が主催し、今年度5回目となる「自然保護セミナー」が開催された。今回は「自然保護を支える仕事~就職支援セミナー~」と題して、自然保護分野の仕事に従事する三人のプロフェッショナルが講演した。そのうちの一人、環境省に勤務し、現在は国連大学のSATOYAMAイニシアティブ担当者として、自然資源の持続可能な利用を推進する仕事に携わる鈴木 渉さんの、これまでのキャリアや環境、お仕事に寄せる思いを報告する。

仕事の指令は突然に

 筑波大学環境科学研究科出身の鈴木さんは、1994年に当時の環境庁に入庁した。中部山岳国立公園のレンジャーとして勤務した後、地球環境部、建設省、野生生物課などの部署を経験。アメリカの国立公園で二年間の海外研修を行ったのち、2006年からは生物多様性に関わる業務に従事している。最初のレンジャー勤務以降、一度も日本の国立公園の現場に出ていないそうで、自身を「落ちこぼれレンジャー」と紹介するなど、気さくで親しみやすいお人柄だ。

 そんな鈴木さんにある日、突然の調査指令が下った。調査対象は「ミレニアム生態系評価」だ。ミレニアム生態系評価とは、国連の呼びかけによって2001年に発足した、生物多様性と生態系がもたらす恵みと、その将来の可能性を総合的に評価するためのプロジェクトである。その報告書が2005年に発表されたのだ。
 ミレニアム生態系評価では、水や食料、土壌の形成、気候の安定などの「生態系サービス」と、それによってもたらされる「人類の豊かな暮らし」は、健全な生物多様性に支えられている、ということが初めて打ち出された。このことにより、今まで虫や獣の話だと思われていた生物多様性が、実は人間の暮らしにも密接に関係していることが周知され、この問題に対する関心は急激に高まったという。そして、生物多様性条約が採択された1992年前後から始まった国際的な議論はこれを機に活発化し、現在進められている「生物多様性の10年」の決議が、2010年に採択されるに至った。

 鈴木さんは、任されたミレニアム生態系評価の仕事について、本当に大変だった、と振り返った。「でも、その後の世界的な動きを見ると、この仕事はとても重要なものだったのだと思う」と自身の仕事のやりがいを熱く語った。

公務員の仕事は法律ずくめ

 一方、生物多様性は、日本政府ではどのように位置づけされているのだろうか。環境基本法の中で、環境政策は、低酸素社会、循環型社会、自然共生社会の3つの社会の理想像で構成されている。そのうちの一つ、自然共生社会を実現するための政策の柱として生物多様性があり、その基本法として生物多様性基本法がある。さらに、国土利用や生態系保全などについての様々な法律が、生物多様性を取り巻いている。

 鈴木さんによると、公務員の仕事はすべて法令に基づいて行われるため、仕事を始める時は、他の省庁との調整時でも、とにかくまず関連する法律を全て読み、その法律に従って仕事をするそうだ。そのため、単に現場で自然を守ろうと省庁に入った人は非常にギャップを感じるという。鈴木さんからは「公務員試験を受ける前に、この“法律が役所の基本”という点については良く理解しておくと良い」と学生へのアドバイスがあった。

保全と利用、せめぎあいの時代

 では、生物多様性にまつわる社会的課題としては、現在どのようなことがあるのだろうか。例えば、様々な食品に使用されるパーム油。日本はその100%を輸入に頼っている。原料となるアブラヤシを生産する東南アジアでは、需要の増大に伴いプランテーションが急速に拡大している。
 鈴木さんは、お気に入りだというプランテーションの風景写真を見せてくれた。法律では川の両岸に森林を残さなければならないが、写真の中のプランテーションは、川岸ぎりぎりまで広がっていた。「現在は、このような自然を利用した場と、本当の自然とのせめぎあいの時代です」と鈴木さんは語った。保護によって一部の自然を守るだけでなく、プランテーションを含めた生態系をいかに、持続可能に利用していくかが、現代の自然保護の重要な鍵になっているそうだ。

 Sustainable(持続可能)とは何なのだろうか、どうしたら持続可能な社会を築けるのだろうか。これからの役所はそういった疑問に答えを与えていかねばならないのではないか―「それが私自身の持つ問題意識」と述べ、鈴木さんは講演を締めくくった。

チャンスに飛び込め

 講演後には、お茶を飲みながらの質問コーナーが設けられ、和気あいあいとした雰囲気の中で、講演者の方々と参加者との意見交換が行われた。
 鈴木さんはその中で、「大学での勉強と実際の社会の間には大きなギャップがある」と語った。大学での勉強と実際の仕事が直接つながることはほとんどない。キャリアは、今ある人間関係と情報から、「点」で動いていくもの。そこには実現したい理想とのギャップが必ず生じる。「“将来“はそれまでに出会った仕事の延長線上にある。先入観を持たずに、そのとき与えられた仕事、やりたいと思ったことに挑戦していくことが一番良い」(鈴木さん)のだそうだ。

 最後に、参加者は人生の素敵なアドバイスを鈴木さんからいただいて、セミナーは終了した。
「チャンスがあったらまず飛び込んでみてほしい。そうするとより面白い人生になる」。

【取材・構成・文 生命環境科学研究科修士1年 赤坂 萌美 】

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