紹介書籍『火の賜物 ヒトは料理で進化した』
書評 料理の誕生と人類の発展をたどる
女性が料理をすべき、という考えはなぜ生まれたのか?
料理をするということ、それは、人間なら誰もが生きる上で欠くことのできない行為です。しかし、これほど男女平等が叫ばれている現代においても、「料理は女性が行うべき」という考えは世界中の国々でいまだ根強く残っています。プロの料理人には男性もいるし、料理が苦手な女性もいるのに、なぜそのような考えが定着したのでしょうか。著者であるリチャード・ランガムは、本書のなかでその理由を模索しています。料理という行為が誕生した際の、人間の男女に生じた行動の変化が手がかりとなるようです。
料理の誕生と、それがもたらした男女の役割分担
リチャード氏はハーバード大学生物人類学教授で、ピーボディ博物館霊長類行動生物学主幹を務めており、チンパンジーを始めとした霊長類文化の研究を専門としています。リチャード氏は本書で、文化人類学の視点から次のように述べています。
「私たちの先祖がまだ火の利用を行っていなかった頃、彼らは一日の大半を食べ物の咀嚼に費やさねばならなかった。しかし火の利用を習得し料理を覚えると、食べ物がやわらかくなったため咀嚼に要する時間が短縮した。すると彼らはより多くの食べ物を得ようと体力のある男性が遠くまで狩りに行き、その間女性は家の周辺で植物などの採集をして食いつなぎながら男性の帰りを待つようになった」。
これは、料理の誕生によって男女の役割分担が生じたことを解説しています。その分担の定着が男女観の形成にも影響を与えた、という考えは驚くべきものです。加えて本書には、次のような説明も述べられています。
「男性は狩りから帰宅すると獲物を女性に渡し、狩りの疲れを癒やすために休憩する。一方で女性は受け取った獲物を料理して家族に分け与える。男女双方がより多くの食べ物を得られるというメリットを共有できたためこの分担が定着し、その結果として料理は女性がするものだという考えが広まった」
料理をしていると周囲の男性が群がり食べ物を奪う等の危険性があるため、女性たちはそれを回避しなければなりませんでした。そのために特定の男性と協力関係を結んだのではないか、とも本書の中で示唆されています。それが、結婚制度の始まり――とても意外です。
料理についての様々な考察
このように、男女観一つとっても、料理の誕生が人類に大きな影響を及ぼしたようです。 ほかにも本書では、生食主義者(食物をできる限り調理せずに摂取する人々のこと)が栄養不足であるという指摘から始まり、料理と人類の体や脳の発達の関係、料理が我々にもたらすエネルギーなど、料理に関して様々な点から論じており、勉強になります。
すべての事象を料理と結びつけているために、ややこじつけのように感じる部分もあります。ですが「料理という日常的な一つの行為が、実に様々な点で人類の発展と結びついている」そんなことが随所で示されている本書は、非常に奥深く興味深いです。
読めば料理にロマンを感じられる
私は本書を読んでからというもの、料理をしている際に人類の発展へと思いを馳せることが多くなりました。祖先のことについて様々な想像をめぐらせながら料理をするのは、なかなか楽しいものです。日々当たり前のように行っている料理だとしても、あなたも本書を読んだらきっと、ロマンを感じることができるでしょう。
書名:『火の賜物 ヒトは料理で進化した』 出版社: NTT出版 |
【取材・構成・文 生命環境科学研究科修士1年 竹股 ひとみ 】