高校生のときには出会えなかった、生理学のおもしろさってなんですか? | 生物学類生による詳細ページ  

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教員紹介

高校生のときには出会えなかった、生理学のおもしろさってなんですか?

中谷 敬先生

私たちは普段の生活の中で、「言葉」を通して他の人と情報を共有していますよね。情報を言葉に変換することで、遠くにいる人にも情報を伝えることができます。実は私たちが匂いを感じるときも、このような情報のやりとりが鼻から脳にかけて行われているのです。鼻の奥で匂い物質を受け取り、その情報が「電気信号」に変換され脳まで伝わることで、匂いを認識しています。生きている細胞を用いて、そこで生じる電気信号を直接測定する。そんな生理学的な方法を用いて、嗅覚の研究を行っている中谷先生にその魅力を伺いました。

イモリもヒトも、同じ脊椎動物

-ご自身の研究について、簡単に教えてください。
「アカハライモリの嗅細胞(※1)には、どのような情報伝達の仕組みがあるのか」ということを、主にパッチクランプ法(※2)を用いて研究しています。アカハライモリは、両生類の脊椎動物で、私たちと同じように揮発性の匂い物質を感じています。しかしそれだけではなく、アミノ酸も嗅覚で感じていると言われていて、私たちの研究室ではイモリの嗅細胞におけるアミノ酸応答の研究も行っています。

-そもそもなぜ、嗅覚について研究しようと思ったのですか?
脊椎動物であるイモリの嗅細胞が、ヒトの嗅覚のモデルになりうるとわかっていたのが最初の出発点。つまり、イモリもヒトもマウスも、同じような仕組みで揮発性の匂い物質を匂いとして認識していることになる。じゃあ、匂いを感知している嗅細胞では、どのような仕組みで匂い物質を感じているのかな、と興味がわいたのがきっかけですね。

-なぜイモリを実験材料にしているのですか?
実験を行うにあたって、もちろん人は使えない。マウスでできなくもないんだけど、恒温動物だから温度を一定にしなければいけないとか、細胞が小さいとか、いろいろ扱いにくい面がある。日本固有のアカハライモリは実験材料としてコンスタントに手に入る脊椎動物で、他の研究者も使っていた。だから、基礎的なデータもあって実験材料として最適だった。

生理学の魅力とは

-生理学の研究を始めたきっかけは?
単純なのに複雑なことをやっている、っていう生物の仕組みがおもしろいと思ったこと。具体的には、生物の神経伝達で使われているのは0と1の活動電位で、まさにデジタル信号。それで脳みたいな高次な活動をしている。その仕組みはどうなっているのだろうって、不思議に思った。

-電位って物理みたいですね。
高校の頃は生物、物理、化学って完全に分かれているけど、生理学の研究現場では科目ごとの境界はだんだんなくなってきている。 生理学は、さまざまな研究領域が重なりあっている部分に位置しているから、 高校のときには想像できなかったような世界だよね。

-生理学的な方法を使うことの一番の醍醐味は?
生きた細胞の中で実際に起こっていることを、リアルタイムで見ることができる点。例えば、あるタンパク質がこの細胞の中にあるということがわかった後、生理学的な方法を使えば「そのタンパク質が細胞の中でどういう役割を果たしているか」を明らかにすることができる。生理学的な方法でしかわからないから、こういうところはおもしろいね。

実験機器から作る

-生理学の研究で一番楽しいときは?
昔は実験機器が今ほど整っていなかったから、いろいろ自分で作った。そういうのは、プラモデル作るみたいなもの。違うのは、プラモデルは設計図が出来上がっていて組み立てるだけだけど、実験装置は自分でいろんな工夫をすることで、独自の装置を作れる。こういうときが、生理学やっていて一番楽しいときだね。独自の実験装置からは、独自のデータが得られる。だからこそ、人ができない研究ができて有名になるんだろうね。たとえば、1991年にノーベル医学生理学賞を受賞したザクマンとネアーはパッチクランプ法(※)という独自の手法を発明した。それを作るのにはものすごく時間がかかったと思うけど、そのおかげで画期的に生理学の分野が進歩して、イノベーションに繋がった。他の人にはできなかっただろうし、やろうとも思わなかっただろうね。だからこそ、人がやれないことをやれるっていうのはすごい強みで、新しいことが出来るってことが生理学のおもしろいところ。 

※1嗅細胞・・・匂い物質を感知する受容体を持つ細胞。
※2パッチクランプ法・・・ガラス管で作った先の尖った電極を細胞に直接刺し、細胞内外の電位を測定する方法。

おまけ~研究者気質は奈良公園で育まれた?~

「中学と高校の頃は生物クラブだったけど、鉄道も好きで鉄道研究会にも入っていた」と話す中谷先生。しかし、生物クラブではペンシルロケット作りに精を出していたそうだ。「実家の近くにある奈良公園の奥に隠れて、ロケットの形や発射台の形を変えたり、燃料を自作したりするのが楽しくてね。」と当時を振り返る。生物学を好きになった決定的なきっかけはなく、ブルーバックスなどいろいろな本を読んで、だんだんと好きになっていったという。研究者人生を歩むための素地は、奈良公園で作られたといえるのか。

インタビューを終えて
物理学類の私が中谷研究室で研究がしたいと思ったきっかけは、生物の体内で行われている情報伝達の仕組みと、人と人が実社会でコミュニケーションをとる手段が本質的に同じなのではないかと思ったことです。生物から学べることはとっても幅広いのだと、大学生になって気がつきました。高校生の頃は生物が大の苦手だったけれど、ヒトと様々な共通点があるとわかったときから、身近に感じてかわいいなと思うようになったのでした・・・。

【取材・構成・文 物理学類4年 仲村 真理子】

PROFILE

中谷敬 

筑波大学大学院生命環境系准教授。医学博士。
岡山大学理学部生物学科時代から一貫して動物の視覚に関する研究を行う。筑波大学に招かれて以来、嗅覚・味覚にも研究対象を広げる。

中谷研究室Webページ http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~nakatani/

※所属・役職は取材当時のものです

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