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教員紹介

どんな環境にも強いイモ類で世界に貢献?! ―“長い目でみて人の役に立つこと” にも目を向けて―

みなさんは「好きなもの」と言われて思い浮かぶものはありますか。

研究において、好きなものを見つけてそれに惚れ込んだり、思い切り打ち込める何かを見つけたりすると、とても楽しいものです。ちなみに私はサツマイモが好きすぎてサツマイモの研究をしています。

サツマイモは、他の作物と比べて様々な環境に強いことが魅力の一つです。サツマイモに限らず、植物は自分の力で移動することができないからこそ、その場所で生きるための方法を身につけてきました。

今回は、イモ類の環境ストレス耐性に関する研究をされている菊池彰先生にお話を伺いました。

塩分や乾燥に強いジャガイモをつくる

菊池先生は現在、塩分や乾燥に強いジャガイモを作出する研究をされています。

なぜ、そのようなジャガイモが必要なのでしょうか?

ほとんどの植物は、塩分が多い場所に置かれると病気になったり枯れてしまったりすることが知られています。それは塩分が多いことで水分がうまく吸えなくなったり、植物の中に塩分が溜まってしまい、植物にとっての毒になったりすることが原因です。

ジャガイモも、塩分が多い場所ではうまく成長しません。塩分に強いジャガイモができると、現在はうまく成長しない海辺などでも、ジャガイモを育てることができるようになります。

塩分など、植物にとってストレスのある環境に耐えられるかどうかは遺伝子によって制御されています。

菊池先生が、今、注目しているのは、マングローブからとれた、機能未知の「マングリン」という名前の遺伝子だそうです。

タンパク質の中には、ストレスが原因で変形してしまったタンパク質の構造を元に戻すようにしたり、ダメになったタンパク質をほどいて、壊していくことを促したりする機能をもつものがあります。このような機能をもつタンパク質は「シャペロン」と呼ばれています。

菊池先生は、マングリンが、シャペロンとしての機能をもつ可能性があるのではないかと考えているそうです。マングリンを様々な作物に入れることで、現在は作物を栽培することができていないような過酷な環境でも、作物の栽培ができるかもしれません。そのため、遺伝子組換えといった技術を用いて、研究を進めていらっしゃいます。

現時点では、マングリンをジャガイモに入れると、塩分だけでなく、悪い環境には全部対応できそうではあるものの、栽培作物として重要な『たくさん収穫できる』という成果はまだ出ていないそうです。

ただ、遺伝子組換えの技術を使って作られた農作物は、色々な場所で植えられるようになるまでに様々な審査を突破しなければいけません。その農作物を食べても安全なのか、色々な場所で植えたときに周りの生態系に悪い影響を与えていないかなどの厳しい審査です。これらの審査を突破するには長い年月がかかります。また、遺伝子組換え農作物は、一般の方からの評価があまり良くないため、現在ではまだ広まりにくいという問題もあります。

そのため、菊池先生は、「ジャガイモと遺伝的に近く、人間による品種改良や栽培がなされていない野生種の中で乾燥ストレスに強そうなものと、現在栽培されているジャガイモとを掛け合わせ、乾燥に耐性をもつジャガイモを作り出す」という研究も行っているといいます。

必要とされる品種をより早く広めていくためには、遺伝子組換えと同時並行で、品種改良の基本である、掛け合わせる方法を使って品種を作り出すことも重要であると言えます。

イモ類研究の必要性とその魅力

農業分野において、イモ類の研究者はそれほど多くないと言われています。

ではなぜ、菊池先生は少数派であるイモ類の研究を続けているのでしょう?

それには、ある植物全体の中で、可食部になる部分が何%かという値である「ハーベストインデックス」が関係しているといいます。ハーベストインデックスを計算すると、サツマイモやジャガイモは50%を超えます。イネや、他の作物だと30%くらいのものが多いです。つまり、イモ類は食糧の生産効率がいいと言えます。

農林水産省の資料(※1)では、もし日本が輸入に頼っている作物(小麦、大豆など)が輸入できず、食糧不足が起こった場合、野菜などを生産している土地をイモ類の生産に変えるべきであるとされています。イモ類は、日本が自給自足で生き延びるためには、なくてはならない作物なのです。

先生が以前行っていた研究で、大きいイモをたくさん作るための研究がありました。植物には、成長するために必要な養分を作り出す部分と、作り出された養分を貯める部分があります。イモ類において、養分を作り出すのは主に葉であり、養分を貯めるのはイモです。葉とイモ、それぞれの能力を上げることで、可食部が多いイモをたくさん作ることができます。そんなイモができると、食糧不足になったとしても、安心できそうです。

先生に、「イモの面白いところは?」とお聞きすると、「収穫物がどうなっているか、引っこ抜くまでわからないところ」だと答えが返ってきました。

それを実感したのが、ジャガイモの研究を始めた頃に行った、塩分に強いジャガイモを調べる実験だったそう。その実験では、二日に一回、塩水を与えるものと、コントロールとして水を与えるものがありました。大事に育てていたところ、コントロールの株は葉がぐんぐん伸びて立派な見た目になり、塩水を与えた株はそれほど育っていませんでした。「『コントロールの株にたくさんイモができているに違いない!』と引っこ抜いたら、なんと、全くイモがなかった(笑)。逆に、葉が全然なくて、もうイモができてないかもしれないと思って抜いたら意外とできていたり。その経験から、抜くまで分からないドキドキ感が楽しいし、面白いところだと思った」とのことです。

※1 農林水産省(2025)食料供給困難事態対策の実施に関する基本的な方針.

https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/horitsu-35.pdf

好きなものを見つけて、広い視野をもって

最後に、高校生や、大学生に向けたメッセージをお聞きしました。

「一つ目は、『好きな生き物を見つけて、それに惚れ込んでほしい』ということです。生き物から学ぶことはたくさんあります。生き物を育てるのはすごく大変で、手をかけてあげないと、ちゃんとしたものにはならない。だから一度でも育てることを経験してほしいです。

二つ目は、『思い切り打ち込める何かを見つけてほしい』です。生物学類は教員数も多いし、分野もとても広い。幅広い生き物の学びができるので、面白いです。

三つ目に、『人の役に立つことというのは、今、目の前にいる人の役に立つことだけじゃない』と伝えたいです。例えば、生物のベースは基礎研究であって、応用研究は基礎研究があってこそ成り立つもの。名前も知られないけど、50年後、100年後に、『前にこんな研究があって、そのおかげで今の新しい技術とか作物とか治療法ができたよね』みたいな話ってきっとあると思います。長い目で見ると、国や社会や世界に貢献することがあるのです。そういうところにぜひ目を向けてほしいですね」

インタビューを通して、菊池先生は穏やかな口調で、芯のある考えや言葉を伝えてくださいました。また、ここに書ききれないほどたくさんの話題についてお話して下さり、何事に対しても好奇心を持って追求する姿勢から生まれるお話に引き込まれてしまいました。

私自身も、高校時代から、農業の研究を続けています。農業や作物の研究では、実験室の人工的な環境では思ったような効果があっても、外の環境ではあまり効果が見られないことがあります。このようなことはよく起こり、とても悩まされる部分でもあります。自然環境は年によって差があることが常です。ただ、そのような中で、思ったような結果が出たり、思いがけない結果が出たりするからこそ、農業の研究はおもしろいと思っています。

自分で研究を行うとなると、すぐに成果がでることや目の前のことに、つい目を向けてしまうことも多いですが、菊池先生の言葉を心にとどめ、何事にも広い視野をもって取り組んでいきたいと思います。

遺伝子組換え作物などの栽培試験を行う温室の前での取材の様子

【取材・構成・文 筑波大学大学院生物資源科学学位プログラム 鴻巣遥香】

PROFILE

筑波大学生命環境系
菊池 彰 教授

T-PIRC 遺伝子研究部門
植物遺伝子多様性・進化機構解析研究分野
渡邉・菊池・小口研究グループ 所属
https://gene.t-pirc.tsukuba.ac.jp/Plant/GeneticDiversity/

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