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花の形の進化の不思議 ~マルハナバチの行動から迫る~

皆さん、花は好きですか?周りを見渡してみると、色も形もさまざまな花が咲いています。なぜ花はこのように多様な色や形をもつのでしょうか?その理由は、実は「昆虫」にあるのかもしれません。

今回は、花と昆虫の関係について研究している大橋一晴先生にお話を伺いました。

昆虫からとの相互作用から花の進化を解き明かす!

花をつける植物は被子植物と呼ばれています。これらの花をつける植物は自分で動くことができません。そのため、昆虫などの動物に花を訪れてもらい、花粉を運んでもらうことで種子を作っています。つまり、花はいずれも「生殖」というたった1つの目的で作られているのです。にもかかわらず、植物は極めて多様な色や形をもつ花を咲かせます。この謎を解き明かす鍵は、花粉を運んでくれる動物との相互作用にあるのではないか、という視点から大橋先生は研究をされています。

大橋先生が主に研究対象としているのは、ミツバチよりも大きくて、丸々としているマルハナバチです。なぜ昆虫のなかでもマルハナバチを選んでいるでしょうか?

図1:コンフリーの花を訪れるミヤママルハナバチ。ミツバチよりも大きく、丸々としている。

マルハナバチは昔から「最適採餌理論」という理論の検証に利用されてきました。最適採餌理論とは、「生物は最も効率よく餌を集めることができるように進化してきたはずである」という理論のことです。

マルハナバチは花粉や花の蜜などを餌にしています。花を訪れるマルハナバチのほとんどが働きバチで、自分の子孫を残さず、家族のために餌を集めることに特化しています。

一方、植物にとってもマルハナバチは花粉を運んでくれる重要な存在です。植物がマルハナバチの餌を集める行動に適応したり、利用したりすることは、植物の生き残りにとってとても重要なのです。

大橋先生は「植物の立場から見たときに重要な動物の行動のパターンとその理由を明らかにすれば、花の進化について説明できるようになるのではないか」との観点から、研究を進めているそうです。

もともとは昆虫が好きだったという大橋先生。しかし大学に入学し、植物の授業で花の進化について研究している先生の話を聞き、花に興味を持ったといいます。

「虫が影響を与えて花を作ってきた(花粉を運ぶ昆虫との相互作用によって、多様な花が生まれてきた)みたいな考え方が、すごく僕は面白いなと思って」と話す大橋先生。このことがきっかけで、先生は昆虫の行動から花の進化について考える研究を始めたそうです。

野外調査×室内実験で解き明かす

大橋先生の研究グループでは、野外での調査を基本としつつ、ときには室内実験も行っています。野外では自然な環境での動物本来のふるまいを観察できますが、様々な要因を自分ではコントロールすることができません。室内実験は、これらの要因を自分でコントロールできる一方で、全て自分でお膳立てしなければなりません。どちらにもメリットとデメリットがあり、うまく組み合わせたり使い分けたりすることで、より包括的に植物の進化を考えることができます。

野外調査は観察から始まります。例えば先生はある時、植物集団を訪れるマルハナバチの中に、広範囲に移動しながら多くの花を訪れる個体から、少数の株だけを巡回する個体まで、様々な個体がいることに気づいたそうです。そこで約600個体のマルハナバチに背番号を付け、株から株への移動を追跡しました。すると、同じ種のマルハナバチでも、個体によって全く行動が異なるということが分かりました。さらに室内実験から、このような行動の違いは、マルハナバチの個体ごとの学習量や内容の違いによって生じることも分かりました。このような個体間の行動の違いが花の進化にどのような影響を及ぼすのかという疑問も、興味深い研究テーマの一つです。

左右対称な花に関する定説は本当か?

ラン科やマメ科などの植物は、左右対称な形の花を咲かせます。18世紀より、「左右対称な花は受粉の精度を高める機能をもつ」と生物学者の間では信じられてきました。左右対称な花を訪れる昆虫は、いつも腹側を下にして正面から花に止まります。つまり昆虫は同じ姿勢で花に止まり、同じ身体の部位を雄しべや雌しべに接触させます。その結果、雄しべで付着した花粉が、より確実に雌しべに運ばれるようになると考えられてきたわけです。

図2:スミレサイシンとヒロハノマンテマは大橋先生より提供。Cardaminopsis arenosaはhttps://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cardaminopsis_arenosa.jpeg#filelinks

しかし、大橋先生のグループはこの定説を別の視点から検証しました。野外で観察される左右対称な花のほとんどは、横向きに咲いています。そのため昆虫の姿勢の安定化は、花の左右対称な形による効果なのか、花が横向きに咲くことによる効果なのかが分かっていないのです。

そこでこの疑問を、クロマルハナバチを用いた室内実験によって確かめてみました。具体的には、花の形(左右対称、二軸対称、放射対称)と花が咲く向き(上向き、横向き、下向き)を網羅的に組み合わせた9通りの人工花を作り、それぞれの花を訪れたハチの体軸の角度のばらつきを調べました。

図3:人工花にとまるマルハナバチ

その結果、花の形によらず、花の咲く向きが横向きのときに、ハチの姿勢の安定性が6割ほど高まることが分かりました。ハチの姿勢を安定させていたのは左右対称な形そのものではなく、左右対称な花の「横向きに咲く」という性質だったのです。

この発見は、野外観察と室内実験を組み合わせたことによって初めて得られた結果であるといえます。また、昆虫の行動に注目することで、花の進化に関する理解を深めることができた例でもあります。一つの視点にこだわらず、別の視点から考えてみることが、新発見のヒントになるのかもしれません。

自分の「好き」を突き詰める

もともと好きだった「昆虫」という切り口から、大学生時代に出会った「花の進化の研究」を進めている大橋先生。そんな大橋先生に、高校生へ向けたメッセージを聞いてみました。

「自分が本当にやりたいことに、自分のエネルギーを全部注ぎ込むっていうことができる時期って人生の中でそんなに長くない。だから高校生、大学生もそうですけど、できるだけ自分のやりたいことを優先して欲しい。それは多分、先々の道を切り拓く力になると思うので、そのことを忘れないでほしい。」と話す大橋先生。

「若いときにやりたいことに打ち込んでみることが、将来的にも自分が本当は何がやりたいのかということを見失わずにすむし、大事なことだと思います。」

インタビューの際も、マルハナバチや花について笑顔で話してくださった大橋先生。自分の「好き」を突き詰めていくことが、新たな発見につながるのかもしれません。

 

【取材・構成・文:筑波大学生物学類  鈴木郁恵】

PROFILE

大橋一晴

筑波大学 生命環境系講師

 

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