大学内に茅葺き建築!? 茅はレトロでイノベーティブ!!
高校生諸君、大学の先生方とは面白い人たちです。もちろん筑波大学生物学類の先生も例外ではありません。今回はそんな面白い生物の先生のひとりである廣田充先生について紹介したいと思います。
筑波大学生物学類の学生に廣田先生について尋ねると、「植物生態の先生だよね」「よく長野の山にいるイメージ」「めっちゃエネルギッシュ」といった答えが多く返ってきます。また中には「お酒が好きな楽しい先生だぞ」とか「大学の敷地内に茅葺きの建物をつくろうと企んでいるらしい」などといった興味深い返答が来ることも。
どうも元気で活発で学生たちにも親しまれているらしい廣田先生、いったい何者なのか、どんな研究をしているのか、大学内に茅葺き建築をつくろうとはナニゴトか、実際に廣田先生にインタビューしてみました。
「茅」って植物の名前じゃないんです
廣田先生は、主に植物に着目して生態系の仕組みを調べる研究をしている先生です。
まず先生に茅とはどんな植物なのか尋ねたところ、「茅という名前の植物はありません」という答えが返ってきました。
衝撃の事実…。先生曰く「茅葺き職人さんが言うには、茅ってなんでもいいんだって。屋根とか修繕とかに使われているのが茅」なのだそうです。茅としてよく使われる植物にはススキ、イネ、カリヤスなどがあります。特にカリヤスの名前の由来は「“刈りやす”い」からで、茅として人々に親しまれていたことが窺えます。
さて、ではなぜヒトは茅を利用していたのかというと、それは茅が「そこにあったから」。つまり、例えば集落や村の周りにカリヤスの草原があれば、簡単にたくさん採れるカリヤスを茅として屋根などに使っていた、という非常にシンプルな話になります。
SDGsと茅
実は、現在の日本では茅の生育する茅場と茅葺き職人の数は年々減少しています。これは便利な化学素材がたくさん誕生して茅の需要が薄れたほか、農村部の過疎化・高齢化が進み茅場を手入れ・利用する人がいなくなってしまったためです。すると、茅もかつては「あるものを、タダで」使っていたはずですが、今では「なかなか手に入らないものを、お金を出して」使うようになってしまいました。ローコストが茅の取り柄だったのに、本末転倒です。もっとも技術が進歩して新素材が旧素材に取って代わっていくのは当たり前のことかもしれませんが、自然環境にも注目してモノ申したいのが生物学に携わる者のサガ。
皆さまは「炭素循環」という言葉をご存じでしょうか。空気中のCO2はずっと空気中に留まり続けるのではなく、植物や海水に吸収されたり逆に放出されたりして絶えず地球上を巡りめぐっています。これが「炭素循環」です。植物は地球の炭素循環に関わる重要な“カギ”であるわけです。
皆さんはSDGsをご存じでしょうか?SDGsとは持続可能な開発目標すなわち持続可能でよりよい世界をつくるための国際目標です。その中には、クリーンなエネルギー・資源の普及、気候変動への対策、自然環境の保護などが挙げられています。
ヒトが茅を利用していた時代には、茅葺きの屋根を新しくしたら古い茅は家畜の敷き藁にして、ボロボロになってきたら畑などに肥料としてまき、最後には微生物に分解されて土に還る、という自然のサイクルが暮らしの中にありました。つまり、茅を介して、CO2がヒトの暮らしの周りを循環していたのです。空気中のCO2は植物に蓄積されて茅葺きに使われ、交換された古い茅から出たCO2は空気中に戻っていくという、「カーボン0」が成り立っていたのです。廣田先生は「これこそSDGsの最先端ですよね!」と熱弁します。
筑波大学産の茅をつくろう!
廣田先生は、植物としての茅の生態・生理だけでなく伝統や文化の中にある“資源”としての茅にも注目して、生物学的・理系的な視点と社会学的・文系的な視点の両方から茅とヒトと地球環境の関係を探るという、とてもユニークな研究をなさっています。
先生は茅の研究を進める中で、自分でも茅で何かつくってみたいと思うようになったそうです。
そして、なんと近年、気象学の研究フィールドとして使われている筑波大学構内の草原で良質な茅が採れることが判明しました。そこで廣田先生は筑波大学産の茅を生産することを決意。今ではシステム情報系や芸術系の先生や芸術の先生も仲間に加わって、筑波大学産の茅をつくる/つかうプロジェクトが進行しています。
実は現在、防火や耐久性の観点から法律によって茅葺き“屋根”の新築は禁止されています。しかし、茅葺きでも、一定面積以下の建物や、“壁”や“オブジェ”をつくるのは、“セーフ”となっています。
そこで廣田先生は、茅を壁に使った建物づくりや茅の収穫などのイベントを計画中。「いつか茅葺きの野鳥観察小屋とか作れたら素晴らしいな!」と楽しげに語ってくれました。今後は生物学類や他の学生にも情報発信していく予定だそうです。
さてさて、皆さまも筑波大学に入学して、茅のプロジェクトに参加してみませんか?
【取材・構成・文:筑波大学生物学類 安富将吾】