その情報、本当に正しい?
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その情報、本当に正しい?
~今を生きぬくための科学的な情報との向き合い方~

みなさんはSNSを使っているだろうか?素敵な写真を共有したり、自分の日常を投稿したり、その使い方は多種多様だろう。情報を発信するのも、情報を受け取るのも過去と比べて容易になった今日では、情報との正しい付き合い方、ひいては情報が生み出される人と人とのコミュニケーションはますます重要になってくるだろう。特に、科学的事実に関する情報を正しく読み取るため、また提示された情報を適切に読み解くための科学コミュニケーションの必要性は、より高まっているのではないだろうか。 オーストラリア出身のMatthew Christopher Wood先生(以下、マット先生)は筑波大学生物学類で科学コミュニケーションの授業を担当されている。今回、日本の高校、大学生、さらには市民として求められる科学コミュニケーションの実践について、マット先生にお話を伺いながら考えてみた。
※なお、今回のインタビューは英語で行われた。

<科学コミュニケーションとはなにか?>
そもそも科学コミュニケーションとはどう言ったものなのか。その定義について、改めてマット先生に伺うと、次のような答えが返ってきた。
一口に科学コミュニケーションと言っても、それが指し示すものはとても広い。シンプルな答えとしては「科学に関するコミュニケーション」と言えるだろう。そしてこれは必ずしも科学者同士で行われるものではなく、科学者と政府、科学者と公衆、政府と政府など、さまざまな立場の間でも行われる。科学コミュニケーションには、このうちアカデミックと公衆を繋ぐ働きもある。
さらに、このような多様なコミュニケーションはその対象によって効果的な方法が異なるという難しい側面をもつ。例えば、科学者が公衆とコミュニケーションを取るとき、科学者同士で行っているようなコミュニケーションの方法はうまく働かないのである。科学者同士ではより理論的な、原理的な話をしながら研究を進めていくが、公衆は実験の背景のような細かい情報にはあまり興味がなく、実生活につながるような話の方に興味を持つ。そうした特徴から、科学者と公衆をつなぐことのできるサイエンスコミュニケーターが必要だとも考えられる。

<文化による科学コミュニケーションの違い>
では、日本の科学コミュニケーションのレベルはどうなのだろう。特に、今の日本の高校生、大学生の科学コミュニケーション能力は、諸外国と比べるとまだまだ課題があるのではないか。  
マット先生にこのことを伺うと、「おそらく諸外国ではディベートの時間などで自分の意見を言う機会などがあり、そこで基本的なコミュニケーションのスキルを身につけている生徒がいるのだろう」とのことだった。全ての生徒がこのような授業を受けているわけではないとのことだが、日本と比べるとそのような機会が多いのは事実だろう。今の日本では、特に高校生でコミュニケーションの学習に充てられる時間は少なく感じる。もっと多くの時間を進学に囚われない、自由な学習に充てられるようになるべきなのではないだろうか。
しかし、諸外国の方法を参考にしているだけではうまくいかなそうである。そもそも科学コミュニケーションは人と人の対話であるため、その国の文化や背景などによって適する方法が異なるのである。西洋的な視点ではディベートは楽しいものであるが、日本では盛んにディベートが楽しまれているわけではない。例えばサイエンスカフェを取り上げても、日本と西洋ではその性質が異なるという。よりよいコミュニケーションのためには、その文化に根差した方法を考慮する必要があるのかもしれない。

バイオeカフェの活動風景
スタッフが話題提供者と一般の参加者の架け橋となり、双方向でコミュニケーションが取れるように工夫されている
(写真は上から2015年、2018年撮影)

 

<フェイクニュースと科学コミュニケーション>
さて、現在、SNSが発達したこともあり、多くの情報が飛び交うようになった。そこには科学的に信憑性の低いものも多く紛れていると思われる。例えばSNS上では新型コロナウイルス感染症のワクチンについて多くの情報が飛び交っているが、正しくない情報に惑わされてしまう危険性もあるかもしれない(引用文献:NHK NEWS WEB参照)。その理由について、人が意思決定をする過程は非常に複雑であるため、一つの要因があるわけではないが、その“正しくない情報”のメタ情報が関わっていることが考えられた。例えばピアプレッシャーがある。これは、自分の属するコミュニティの他の人の意見に流されることが具体的な説明になるだろう。他には“何の情報か”よりも“誰の情報か”という観点に注目するなどといった要素がある。SNSで多く共有されていればその条件を満たすため、SNSでデマが広まってしまうのは構造的に納得できる。またマット先生によると、興味深いことに「人の行動は科学的情報を与えただけでは変化せず、その出来事が自分の実生活にどう影響してくるか、自分の周囲の人がその問題に対してどう考えているかといった条件から影響を受けてしまう」というのだ。

<私たちと科学コミュニケーション>
 今我々が体験している新型コロナウイルス感染症によるパンデミックのように、正しい科学コミュニケーションが必要な場面はごく身近にあるのだが、我々世代、特に生物学類で勉強していくような我々はどのように科学コミュニケーションを行っていけばよいのだろうか。
1つの方法として、我々もTwitterのようなSNSを駆使したり、ブログを書いたりしてみてもよいだろう。自分で記事などを書いて発信することはハードルが高いと感じるかもしれない。もちろん、我々生物学類生は生物学の研究を職業としているような専門家と比べたら科学に関する知識や思考は及ばないが、一般の人と比べれば科学に詳しいと言えるだろう。「知識というのは“知っている”と“知らない”の二面的なものではなく、段階的な構造になっているから、自分のできることをしてみればよい」とマット先生は背中を押してくださった。
現代社会において、科学コミュニケーションの能力は必須だといえるだろう。SNSの発達など、誰もが簡単に情報を発信できるようになった結果、怪しい情報も含む多くの情報が飛び交うようになった。このような情報に騙されないためにも、また正しい事実もそれを曲解しないためにも、私たち一人一人がそれぞれ科学コミュニケーションのスキルを身に着けることが重要だろう。

引用文献
NHK NEWS WEB特集「誰が、何のために「デマ」を拡散させるのか?」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210914/k10013253901000.html

参考文献
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構国立情報学研究所 NII Today第89号「SNSによるデマ拡散」問題の本質とは
https://www.nii.ac.jp/today/89/4.html

 

【取材・構成・文:生命環境学群生物学類3年 勝村圭裕】

 

PROFILE

Matthew Christopher Wood先生

筑波大学生命環境系助教

サイエンスコミュニケーションの研究によりオーストラリア国立大学で博士号を取得。 2009 年より筑波大学にて生物学類生への専門語学(英語)や科学コミュニケーションの授業 を担当されているほか、「筑波大学学生サイエンスコミュニケーショングループ SCOUT(スカウト)」の代表を務め、学生の科学コミュニケーションの活性化に尽力されている。 カメラもお好きとのことで、様々な構図で写真を撮ってくださった。

 

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